[2008年12月25日]
vol.20 夜の電話
不倫してるときに一番恐いものと言えば、不倫相手から家に掛かってくる電話です。携帯電話なんかない時代のことですから。
一度だけ、電話の線を引きちぎったことがありますね。不倫相手と待ち合わせしていたんだけど、すっかり忘れて家に帰ってしまって。待ち合わせを忘れるくらいだから、その人とはどうでもよかったんだけど、待たされた相手はものすごく怒っている。当たり前ですけど。
家に電話をしないというルールを無視して、怒りの電話が掛かってきたわけです。妻がそばで不審そうな顔をしているから「はい、わかりました」とか適当なことを言って電話を切ると、また掛かってくる。そのとき電話線を引きちぎりました。「何すんの!!」って妻に怒られましたけど。
もっと恐いのは、夜に掛かってくる電話です。
夜の2時ごろだったと思うけど、Fから電話が掛かってきたんです。
そのころ『ウイークエンドスーパー』が廃刊になって、Fは会社を辞めていたんだけど、僕からFに電話することはほとんどなかったんです(Fは両親と住んでいたから掛けづらかったこともあります)。
いつもFから会社に「会わない?」って電話が掛かってきて、高田馬場か池袋の喫茶店で会って、話をしたあとホテルに行くというワンパターンになっていました。ときどき、それが義務みたいに思うこともあったりしてね。
Fから家に電話が掛かってきたことは一度もなかったから、「Fです」という言葉にドキッとしたけど、次の言葉で頭が真っ白になりました。
「私、死ぬから……」
え〜〜〜〜〜っ。「医者に行ったら梅毒だって言われて、3日後に死ぬから」え〜〜〜〜っ。「すぐきてくれる?」
冷静を装って服を着替えていると、Yが「どうしたの? 何があったの? 誰から電話なの?」と聞くから、「○○さんが、すぐきて欲しいって言うから」って嘘を言って家を飛び出しました(○○さんは作家の人で、そのあと自殺しました)。
タクシーを拾って登戸からFのいる板橋まで行ったんだけども、タクシーの中でFが「梅毒」って言ってたことを思い出して、急性梅毒ってあるんだろうか、何かヘンだなって考えていました。
Fをタクシーで送ったことが何回かあるので家は知っていたけど、さすがに「こんばんわ」って入って行く勇気がなくて、家の前から電話したんです。そしたらお母さんが電話に出て、「いま行きますから」って。え〜〜〜〜っ。お母さんに会ったことないですよ。自分のことをなんて説明すればいいんだろう。
お母さんが出てきたときは緊張しました。お母さんは何も聞かずに、「今日は帰ってください」って言うんです。「やはり何かあったのか」って思いました。「どうしたんですか?」って聞いても、お母さんは「帰ってください」としか言わないんです。
それから何日か経って、Fからきた手紙で、Fが精神病院に入ったことを知ったんです。
(聞き書き:松田義人)
末井さん近況『ダイナマイト母親の墓参り』

……引きこもり中、です。
末井昭(編集者)
1948年・岡山県生まれ。白夜書房・編集局長。キャバレーの看板描き、デザイナー、イラストレーターなどを経て編集者に。現在はサックスに夢中。主な著書に「素敵なダイナマイトスキャンダル」「絶対毎日スエイ日記」などがある。
末井昭
プロフィール
編集者
1948年・岡山県生まれ。白夜書房・編集局長。キャバレーの看板描き、デザイナー、イラストレーターなどを経て編集者に。現在はサックスに夢中。主な著書に「素敵なダイナマイトスキャンダル」「絶対毎日スエイ日記」などがある。
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